下津の万葉歌碑(大崎荒磯の万葉歌碑)
大崎の 荒磯(ありそ)の渡(わたり)
延(は)ふ葛(くず)の
行くへもなくや 恋(こ)ひ渡りなむ
巻12 3072 詠人 不詳
所在地 海南市下津町大崎 下津つり公園入口
揮毫者 土田 美和子氏
建立日 平成13年4月14日
この万葉歌碑は、平成13年4月に絶景の和歌浦湾が一望できる「下津つり公園」の入口に建立されたものである。
この歌に詠まれた「大崎の荒磯の渡」については「古義名処考」に「紀伊国海部郡にありて良き港なり。浜に人家ありて、遊女なども居り、往来の船大方この港に着く。今も土佐の船の往来に常に泊る所なり。古も土佐に通ふには、必ずこの大崎を通りしならむ」と記されている。
又、歌中の「葛」は、秋の七草の一つで、野山のいたる所に自生し、成長力が強く地表をたくましく延び広がる蔓植物で、初秋に赤紫色の蝶形の花をつける。又、根から葛粉(澱粉)を取り食用とする。奈良県吉野産の「吉野葛」は有名である。
この歌の意味は「大崎の荒磯のあたりに延び広がっている葛のつるのように、私の恋はこれからも行方が定まらないまま恋し続けることでしょう」であろう。
この歌に詠まれた大崎は、古来より土佐や阿波への船の発着港として、又、風待港や避難港として大いに賑わった良港であった。
歌碑の建つこの地は「いろよんば(色読場?)」と呼ばれた魚群の見張り台があった所で、ここからは魚群だけでなく和歌浦湾に出入りする船舶についての動向も見張っていたのであろう。
現在では眼下に駐車場を備えた「下津つり公園」ができ、多くの釣り人が大漁を期待して訪れています。
紀州語り部 大峯 登
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