氏 名
林  安夫
 所 属
東燃関東地区OB会
 掲 載 日
平成22年09月20日
表 題

 ごぶさたしています(ドーハからの手紙)

本   文 


カタール滞在記

 カタールに来て16 月が過ぎ様としています。現在、1ヶ月に及ぶラマダンが終わり、EID休日で国中お祝いムードに包まれています。と言っても特別な行事が或る訳ではなく、ショッピングモールではセールがあリ、買い物客で賑っているのが普段と異なる程度です。此れは我々異教徒の目に映る風景であり、イスラム教徒にとっては聖なるラマダン期間中、日中(日出から日没)、飲食、飲酒(元々禁酒)、喫煙を避け夜間お祈りに励む毎日で此れが終了した喜びに包まれる時期に当っています。因みに何時、ラマダンに入り、明けるかは、メッカに居る偉い方が決め、世界中のイスラム教徒に瞬時に伝えられます。

 同国はペルシャ湾の中央に位置する半島(サウジアラビアとは陸続き)で、国土面積は秋田県と同じで、大部分平坦な荒野(砂漠)が広がっている。人口の8割は首都ドーハに集中している。首長制を採り、人口は100万人を超え、アラブ人40%、インド・パキスタン人各18%、イラン人10%、アジア人他14%で此れに世界中からの多数の出稼ぎ労働者が加わる。湾岸諸国のご多分に洩れず、同国は外国人でもっている。但し、彼らは外国人に働かせて遣っているとの意識が強い。トラブルを起こせば、外国人は徹底的に不利に扱われる。天然ガス、原油以外に此れと言った産業は無く、食料品を始め、殆どの物資は輸入で賄われている。首都ドーハには高層ビル、豪華なホテル、モール、住宅が多数有り、世界中の物資が溢れている。車の大半は日本製且つ高級車が目立つ。ガソリンは14円・リットルとミネラルウォーターより安い。(自分の経験ではべネゼイラも此れより多少高いが安い)海水の淡水化(現在は殆ど逆浸透膜法)により真水は豊富で、ドーハ市内及び幹線道路沿いには樹木が植えられている。緑に包まれたゴルフ場もある。偶像は忌み嫌われ、一般的には写真は撮らない。

 仕事は千代田化工と現地財閥とのJV(現地法人)で、顧客RasGas社とのコーディネーション業務です。千代田は同国での最大事業であるLNGプラント建設の殆どを手懸け、認知されている。下記事項(ポジティブ&ネガティブ)を考慮して、此方での勤務を決めました。

ポジティブ

 ●  未だ引退するには早すぎる。海外勤務に抵抗感がなかった。

 ●  カタールでの戒律はサウジ(クウェート、イラン)より遥かにマイルド。因みにUAE、バーレン、インドネシアは何でも有りとイスラムでも千差万別です。

 ●  RasGas(国営でQatar Petroleumの配下)にはExxonMobilが30%出資しており、東燃での経験が生きる。

 ●  一人当たりのGDPは米、日より遥かに大きく、所得税、消費税等が無い。

 ●  対日本、日本人感情が良い。

 ●  治安が良い。(出稼ぎ労働者が犯罪を起こせば、即、国外退去処分)

ネガティブ

 ●  厳しい気象条件(夏季、高温多湿。45-50℃になり肌に痛みを感じる)

 ●  日、欧米の様には文化的生活は期待出来ない。

 ●  ドーハのホテル形式の宿舎に居住するが、自炊生活。工場はRasLaffan(工業地域)にあり、ハイウエイを高速(時速130-150km)で一時間足らずの通勤。

 一方、現在の認識は上記に比べ、以下の如く可也違ったものです。

 ●  RasGasはExxonMobilのaffiliateではなく、技術、管理運営も全く異なり、小生経験も殆ど生きない。又、慣れ親しんだDP/BP-IP(Blue Book)が如何に優れたものかを再認識される。(今更ながら50%超のシェアがaffiliateの条件を思い知らされた)

 又、upstreamのExxonMobil Development Companyが関与し、downstream(refining)に比べ技術、技術者が遥かに貧弱。(この傾向はChevronも同じであった)

 元のMobilが権益を持っていた所で、EMに成った後段々元のExxonに変わりつつあるが、管理レベルでは Mobilはgeneralistの集団、Exxonはspecialistの集団と言え、Mobilスタイルには馴染めない。

 ●  RasGasにはExxonMobilからの出向者を除き、60ヶ国程度(多いのはインド、オーストラリア、イギリス、マレーシア、フィリピン等)から出稼ぎの技術者が集まり、彼らは金儲けが主目的である。会社へのloyaltyは全く感じられず、自己保身のみである。又、その技術レベルも驚く程低い。一方、カタール人は英語が巧みなだけで(殆ど海外留学者)、働かない。

 ●  今回のRasGasとの仕事はリンバースで為されるが千代田はランプサムが体に染込んでいる。当り前だが、操業者のマインドが理解出来ない。

 と言う訳で、此れ迄の海外経験(行った国は30数カ国)を含め、総括すると

 ― 東燃時代は何と幸せな、技術者冥利に尽きる。(同意見の諸兄が多数居られる事と推察します)此れに関連して、現在の東燃ゼネラルは嘗てとはすっかり変わったと耳にするに就け、寂しい思いをする次第です。

 ― 夫々の国で、思わぬ出会い、経験があり、上記を結果的に確かめるプロセスであったと思える。

 ― 外国人の生きて行く上での逞しさを見るに就け、日本の技術、産業、若者は如何なるのか憂慮されます。若者には「どんどん海外で経験すべし」と言いたいものです。

 又、英語(正確には英会話)が苦手で云々と言う事を良く耳にしますが、「必要に迫られなければ旨く為れない」が本当の所です。ろくに教育を受けていない外国人が会話しているのを見るに就け、この事強く感じます。自分自身英会話が旨いとは思った事は無いけれど、スコットランド人に向かって「英語をしゃべれ」と言った事も何度かあり、彼等もこの点自覚しています。アジアンEnglishが分かり難いのは当り前です。

 カタールももうそんなに長くは無いと感じていますが、精一杯エンジョイする所存です。

                       9.14.2010 ドーハにて

 写真は、今年6月5日の47年同期会における筆者(高野英二氏提供)


以上

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