短歌便り-6 秋深む
未だ青く固き蜜柑に爪立つれば秋の香りのほとばしり出づ
秋日和日向ぼこすれば遥かより運動会の歓声時折聴こゆ
夕光に一樹の銀杏照り映えて風なきままに黄葉の散る
秋の陽を背に受け庭の雑草を抜く酔うがごとくに濃き香り立つ
茄子紺の裏富士の上に金色の縁どりをせし茜雲浮く
フランスの旧きシネマに妻は泣く秋の長雨の降り続く午後
秋雨の朝に友の訃報あり南天の実は紅を増す
陽に映えて火の色のごとき櫨紅葉冬近き山の紅の彩り
ほそぼそと鳴き続けたる蟋蟀も今宵は鳴かず月冴え返る
季節の終わりはなんとなく淋しい。とくに、秋の長雨が続き、友人知人の訃報などがあるとなおさらである。それでも秋日和の青空、里山を彩る紅葉、柿、栗、蜜柑など心を慰めてくれるものも多い。
以上
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