短歌便り-8「海外旅行-1」
荒寥たる白き大地にただ一つまたたく灯あり人生きてあり
(シベリア上空)
シーザーの刺されしときも風立ちて雛罌粟は赤く乱れ揺れしか
(ローマ ホロロマーノ)
マロニエの葉陰に宿り雨を聴くここ異国の夏の終わりに
(ポーランド ショパン生家)
鈴鳴らし家路を急ぐ驢馬の眸に茜を点ずミハスの夕映え
(スペイン ミハス村)
海と空のあわいの雲は遠霞み岬にはただ風渉るのみ
(ポルトガル ロカ岬)
遥けくも来つるものかな鎖橋現実なりやと音立てて踏む
(ハンガリー ブダべスト)
かかる幸福ありてよきやと妻の問うチロルの風は草の香に満つ
(スイス)
あれこれと迷いて求むトルコ石を妻は宿にても飽かず眺める
(トルコ トロイ遺跡)
海外への旅も50ヶ国を超えたが、旅詠は地名を入れねばならず、厄介で30首ほどしか詠んでいない。長女が米国で暮らしているので、米国には十数回旅しているが、一首も旅詠がない。
それでも、シベリア上空の夕暮れ、真っ白な荒寥の大地に人間が生きている証拠の一つの灯を見つけた時の感動は歌に詠まずにはいられなかった。 ローマ古代遺跡でシーザーが暗殺された場所に立ち、一面に咲き乱れる赤い雛罌粟を見たときは、歴史の一場面が蘇ったような感慨に襲われた。
以 上
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