短歌便り-9 「海外旅行―2」
旅空に日照雨かかりぬ夕暮れて廣野の果てに巨き虹立つ
(ノルマンジー)
黒マリアを守る老婆は眼を閉じて化石のごとくひたと動かず
(スペイン、聖地モンセラ)
遠き国を夢見て船出せし人はこの岬にて大洋眺めしか
(ポルトガル、ロカ岬)
バルカンの青き山並み雪白く夏野彩る罌粟の紅
(ブルガリア)
ミケーネの黄金の面を傍らに警護の娘らは私語に耽りつ
(ギリシャ)
冥界の妖しき色か濃き藍の暮色に揺れるドナウの河面
(カレル橋)
丘の上の家々の灯は霧に滲み白夜の港に遅き夜来る
(北欧ベルゲン)
大夕焼け物乞う子らの眸にも赤く燃えおりマニラの街角
(フィリピン)
地底湖の盲目の魚は囚われの身を寄せ合いて身じろぎもせず
(スロベニア、ポストイナ鍾乳洞)
納屋壁に痘痕のごとく弾痕のしるけき村に林檎花咲く
(スロベニア)
異国の枯れ山水に匠らの意気意地を見る苔の石組み
(ウィーン日本庭園)
まだまだ訪ねたい国や土地は沢山あるが、さすがに13時間も要する欧米への航空機の旅は体力的に無理となった。こうして、拙いながらも旅の短歌を並べてみると、当時の想い出が感動を伴いまざまざと胸に蘇る。
もし再訪が許されるとすれば、ウィーンとザルツブルグを含むその近郊、ニューヨークとでもなろうか。どちらにも素晴らしいオペラ劇場、コンサートホール、美術館、庭園があり、退屈することがない。
近年発見され再建されたシェーンブルン宮殿の日本庭園は、苔を栗鼠などに食べられてしまうので、残念ながらネットで覆われ、庭園の良さが失われた。
以上
|