短歌便り-11 「冬来たりなば春遠からず」
凍て空は梅の香りに緩むかに天狼星青く艶に瞬く
光潤む今宵の空の星たちは春も近しとささめき合うか
大売り出しの幟はためく歳末の人無き街を木枯らしの過ぐ
肩丸め北風に吹かれ駅へ向かう人々の背を枯れ葉追いかく
丘の上の家は夕映え炎立つ砦のごとく冬空に屹つ
冬枯れの薔薇の根際に寒肥する春には咲けよと声をかけつつ
剪り難き薔薇一輪を愛しみて冬ざれの庭にその香を求む
幼らが首伸べ空を仰ぐごと辛夷の蕾蒼空を突く
幕上がりバレリーナらが一斉に舞い出るごと辛夷咲き初む
数多咲く椿の中にただ一つ吾に向かいて語る花あり
不景気の今冬、商店街にも人が少なく、勤め人達の背も心なしか寒々としている。
それでも夕陽は丘の上の家々を落城する砦が炎上するように赤々と照らし、冬の夜空の星座は一際輝いている。
春の花を楽しみに薔薇の手入れが忙しいが、既に辛夷の蕾はふくらみ、椿や梅の花は満開である。
以 上
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