短歌便り-15(哀歌;東日本大震災−1)
鈍色の沖には白き波立ちて海鳴りしつつ陸に迫り来
牙をむき咆哮しつつのしかかる獣のごとく津波の襲う
盛り上がり崩けて落ちし水の壁は濁流と化し家を毀ちぬ
黒き波は瞬く間にも野を覆い街を呑みこみ海に攫いぬ
大波に弄ばるる玩具のごと重なり合いて自動車流さる
津波去り瓦礫の原と化せる街を月は惨きまで隈なく照らす
花咲けど心は重し今年の春万余の屍海に漂う
津波跡の瓦礫の原に残りたる梅二本は蕾つけおり
核の事故まだ終熄ざるも不気味なる塵まき散らし春風の吹く
掌を合わせ援助の人にほほ笑みし媼の夫は流されたると
原発事故は未だ終わらず、放射能は海も空も汚し続けている。人間の文明など大自然の脅威の前には吹けば飛ぶようなちっぽけなものだ。神の領域である核に挑んだ人間の思い上がりに対する天からの警告であろうか。原子力発電所は神の怒りをかった現代の「バベルの塔」であろうか。
暗い沖に横一線に白い波頭が立つや、みるみる波は勢いを増し、白い牙を剥き咆哮する獣のように突進し、波しぶきを高々と吹きあげて海岸を襲う。盛り上がった海は巨大な水の壁となり、崩れ落ちて、防潮堤を破壊し、巨大な滝となり街になだれ込む。爆走する濁流は家々と人々を押し流し、整然と並べられた何十台もの自動車をまるで玩具のようにもてあそび、自動車は折れ重なって海に流れ込む。川を遡り田畑を襲った黒い波は瞬く間に拡がり、村落の家々と住む人々を根こそぎ巻き込み海に攫って行く。
このような大災害を三十一文字の短歌に詠むのは不可能である。ただ、歌詠みの端くれとして、この悲劇の記録を歌にして残したいと思い、とりあえず数首詠んでみた。推敲不足で生硬な歌が多いが、追々直して行く心算である。
以 上
|