氏 名
豊田 乾
 所 属
東燃関東地区OB会
 掲 載 日
平成23年 5月08日
表 題
 短歌便り―16(桜)
本   文 


 ただ一本(ひともと)峰の桜は「われ在り」と告ぐるがごとし白々と咲く

 里山を覆い桜の咲き満ちぬ全山白く春への化粧

 春の宵回り道して帰り来ぬかなたの花にふと魅入られて

 老い二人かたみに歩みを(かば)いつつ浄土のごとき花の道行く

 花見客の絶えし道辺の老い桜残りの花一枝夕陽に揺れる

 裾からげ大路往く僧の墨染の衣の肩に花の一片(ひとひら)(鎌倉若宮大路)

 花散りて道一面の花模様崩すを(おそ)れ歩みを留む

 幼らが輪舞するごと渦巻きて花びらは舞う春の旋風(つむじ)

 散り敷ける花びらの海に風立ちぬ波寄せるごと砕け舞い散る

 待ち焦れし花は嵐に散り果てぬ時は(たば)にて過ぎ去りゆくか

 心せかれ花を求めし日々は去り(しべ)降る宵に海鳴りを聴く

 毎年、春になると桜の咲くのが待ち遠しいが、今年は大震災の被害に心を傷め、花見もしないうちに、気付いたら葉桜の季節になってしまった。

 例年のことだが、鎌倉の里山の山桜の数の多さには驚かされる。こんな所にも桜があったのかと気付く日々である。それでも、数ある桜の中で毎春一番先に咲く里山の峰の一本の山桜には必ず春の挨拶を欠かさない。

 桜は満開のときはもちろん、咲き始め、散り始め、舞う花びら、散り敷いた花片にも心を奪われる。それに、桜は入学式、卒業、就職と人生の節目を彩る花ゆえに多くの日本人の心に刻まれ、愛されている。桜が日本の国花である所以である。

                            以 上