短歌便り-18(初夏)
初夏の風になりたや早乙女の裾ひるがえし燕乗せて
小坊主らの覗き見するごと梅の実はたわわに実り葉陰に揺れる
虹色にオパールのように燦めきて朝露のあり椿の葉先に
時鳥の音に誘われて外に出れば谷戸渉る風は若葉に薫る
初夏の光に魚影は煌めきて少年のように心ときめく
桑の実を食めば甘酸くよみがえる飢えに追われし少年の日々
ただ一つ初に実りし桜桃を飾り眺めて妻と分け合う
紅の茱の実つけし一枝活けルビーより美しと妻の喜ぶ
妻の好むまだ爪青きそら豆をためらいつつも二山求む
夜更けてしきりに母の想わるる五月の闇に青葉梟啼く
翡翠の瑠璃の一閃魚捕らう見たるを一日の幸せとせむ
原発事故は終息しないまま被災地の東北地方は梅雨入りとなった。だが、たがいなく季節は巡り、木々には梅の実、枇杷、桜桃、杏、山桃、茱、桑の実などが実る。鶯は朝から夕方まで囀り続け、時鳥は時折鋭い声で啼きながら空を飛ぶ。夜ともなれば青葉梟が淋しげに「ゴロスケ、ポッポー」と低音でつぶやく。近所の小川には稚鮎の群れが遡上し、それを狙って白鷺、翡翠もやって来る。畑には、好物のそら豆、いんげん、玉蜀黍、茄子、胡瓜が実り、食卓を賑わせてくれる。天も地も豊穣の季節である。
以 上
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