氏 名
豊田 乾
 所 属
東燃本社OB会
 掲 載 日
平成23年08月10日
表 題
短歌便りー22(老い)
本   文 


年ごとに()く流れ行く時に抗し杭打つごとく日記をしるす

 朝刊の死亡欄を真っ先に見るならわしとなる傘寿迎えて

 碁に敗れ老い知らされし春の宵犬を抱きて花散るを観る

 労(いたわ)りの言葉届かず耳老いし妻との会話も少なくなりぬ

 耳遠き妻には聴こえずねぎらいの言葉も次第に声高になる

 脚病めど初松茸を夕餉にと厨に立てる妻の背丸し

 夕されば酷暑に喘ぐ老い二人に磯の香のせて海風の吹く

 呼び出し音十度は鳴りてようやくに電話に出し姉は脚病む

 二人だけの金婚の宵来し方の苦労話を笑みつつ交わす

 風なきも夕陽に光り紅葉散るかかるがごとくひそと逝きたし

 八十歳という自分の年齢が信じられない。時間は残酷に確実に老いを進めている。最近は老いを自覚させられることが多くなった。

 歩く速度が知らぬ間に遅くなっている。眼がかすみ、雲一つない青空なのに何時も空には霞がかかっている。囲碁では信じられぬようなポカが出て逆転負けする。友人知人は一人二人と逝き、少なくなっている。

 夫婦二人共耳が遠くなり、会話はチグハグになりがちだが、老々介護ながらお互いに扶けあいつつ日々を送れるのを何よりの幸せと思っている。

 残された日々は少ないが、一日一生と思い定めて、薔薇を育て、歌会や囲碁会に参加したりして精一杯生きている。

以上     

                         
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