短歌便り-30 (老妻-2)
「笑った」と幼子を囲みあやしいる妻と嫁との声華やぎて
妻の好むまだ爪青きそら豆をためらいつつも二山買いぬ
好物の夕餉の卓のそら豆の湯気に緩みし妻の口もと
長かりし風邪も癒えたり梅干しと粥三杯に妻の喜ぶ
吾の好む味とて妻の買いきたる海鼠腸嚙めば汐の香の立つ
憎らしき薔薇の虫らも今朝だけは命助けむ妻手術の日
入院の妻より電話かかり来ぬ若き日のごと心ときめく
生検の結果よければ安らぎて日向に爪切る妻の背丸し
風邪に臥す妻の寝顔は義母に似て口もとの皺は年ごとに深し
イヤホーンを妻と分かちて共に聴く懐かしき唄を停電の夜に
(計画停電)
年をとるのは若い時分に考えていたより大変である。足腰が弱り、歩行は遅くなる、視力が落ち、新聞雑誌は拡大鏡が無ければ読めない。何をやってもすぐ疲れ一休みである。
一休みしてTVなど視ているといつの間にか居眠りしている。探し物ばかりしていて貴重な時間を空費している。物忘れもひどく、よく知っている人や草花の名前が出てこない。まさに「麒麟も老いれば鴑馬に劣る」の諺どうりである。
何時まで続くか分らぬが、夫婦二人、あちこち病みながらも、寝たきりにもならず助け合って日々を過ごせるのはなによりも有難い。一日一生と思い定め。妻をいたわり、悔いなき日々を送ろうと思っている。
以上
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