短歌便り-33「浅春」
おお おきな
春雪に眉被われて白髭の翁と化しぬ陶の狸は
ぬく すさ
抱きやりし犬の温みを想い出ず春の嵐の吹き荒ぶ夜
こう ふふ わびすけ
一筋の紅を含みて真白なる侘助はひらく春の庭蔭
鮮烈に冬の寒気を裂くごとく沈丁花薫り水仙の咲く
穂と垂れしミモザはひらく連なりて黄の珠となり春を薫りぬ
春の空に白き雲浮き黄の蝶のもつれ合いつつ庭先に落つ
不景気の冬も去りしか庭すみの百合の若芽はにょつこりと出ず
みたり
梅薫り海望む丘を客三人乗せたるバスが春の午後ゆく
きざ あがな
蕾兆す薔薇の苗木を購えりもう三年は生きねばと思う
朝方降り始めた新雪は庭先の陶の狸の笠、頭髪、眉毛、あごなどに降り積もり、あっという間に若い娘狸を白髪の老狸に変身させてしまった。
春一番の嵐が吹き荒れ春雷がとどろく夜、雷が嫌いな亡き犬を抱き締め、震えを抑えてやったことなどを妻と共に思い出し、語り合い懐かしんだ。
茶花に好まれる椿の一種「侘助」は真白な花片に薄い紅がさし、楚々として庭の蔭に咲くところがよい。
春先にいち早く咲く沈丁花、水仙、シクラメンなどの芳香は鮮烈という言葉でしか表わせない。
ミモザは大樹が多いので花は何時も下から遠く仰いでいた。ご近所の方から満開のミモザの一枝をいただき、室内に活け近づいて見れば、線香花火か金平糖のように小さな黄色の珠が連なり、精一杯に咲いているのに感動させられた。
春の昼、ふと青空を見ると、二匹の黄蝶がもつれ合いながら舞い、庭先に落ちてきた。
長かったデフレもやっと収束しそう。庭へ出ると隅に百合の芽が元気一杯に伸びていた。
春の昼下がり、バスが二三人の乗客を乗せ、海の見える丘の上をのんびり登ってゆく。
春に備え、蕾が付いた薔薇の新苗を三本買った。見事に花の咲く三年後が楽しみで、生きる元気も張り合いも出てきた。
以上