私の住む茨城県つくば市の隣りの牛久市に牛久沼という大きな沼があります。ある秋の夕方、牛久沼のほとりにたたずんで景色を眺めていました。そこから西南の方角になんと富士山が夕暮れの中に黒く浮き出てみえるではありませんか。その時、親しい合唱愛好の仲間とよく歌っている男声合唱曲を思い出しました。
草野心平作詞・多田武彦作曲の男声合唱組曲の中の1曲・「作品第拾陸・黒富士」という歌がそれです。
うしくの果の はるかな果ての山脈(やまなみ)の
その山脈から 一段高く 黒富士
大いなるはるか黒富士
さくらんぼ色はだんだん沈み
上天に金隈取の雲一片
存在を超えた無限のもの
存在に還る無限なもの
祈りのごときはるか黒富士
私が寒々とした波立つ牛久沼の向こうに見たものは、まさにその歌の情景そのものだったのです。金色に縁取られた雲(金隈取の雲一点)までもがきらきら輝いて見えたのです。思わずカメラを向けズームアップしてシャッターを押していました。私にとっては会心の一枚になりました。
以上